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17年間一冊の本を待つということ。恩田陸『薔薇のなかの蛇』を読む

転職活動をしていたとき、たびたび聞かれた質問の一つに「どうしてライターになったのか」というのがあった。

このどうして、を考えるとぶっちゃけなりゆきで、、、となるわけだが、そのなりゆきを整理すると、「本を読むことが好きだから」というのが大部分を占めていることに気づく。

幼少期から今まで、わたしは幸運にも本をずっと好きでいられた。本、というのはあるときは『 ないた あかおに』で、あるときは『 ズッコケ三人組のミステリーツアー 』で、あるときは『 ダレン・シャン』で、あるときは『 がらくた』で、あるときは『桜桃』で、あるときは『 豊饒の海 春の雪』で、あるときは『一千一秒物語』で、あるときは『 ハーモニー』で、、、とグラデュアルに変化していったものの、それでもわたしが本を好きでいつづけるために必要だった分岐点に存在する本はいくつかある。

そのひとつが『麦の海に沈む果実 (講談社文庫)s= 麦の海に沈む果実]』『 三月は深き紅の淵を』『 黄昏の百合の骨』などからなる恩田陸の「理瀬シリーズ」だ。

理瀬シリーズの『麦の海に沈む果実』をはじめて読んだのは小学校5年生の夏だった。きっかけはドラマ『六番目の小夜子』だと思う。NHKで何度も再放送されたそれをいったいいつのタイミングで見始めたのかは覚えていないが、当時、NHK以外のテレビ番組は禁止(アニメと『世界ふしぎ発見』のみOKだった)されていたわたしにとってはじめて自分の意思で見たドラマだった。

そしてエンドクレジットから恩田陸という名前に行き着いたわたしは、図書館ではじめて「大人」の文庫本を借りることにしたと記憶している。それまで青い鳥文庫などを読み漁っていたものの小さな活字の文庫本に触れたことはなく、読めるかな、とドキドキしたのを覚えている。

ページをめくるとあまりに面白くて一時間程度で読み終えてしまったのをよく覚えている。

その夏、わたしはありとあらゆる恩田陸の本を読んだ。そしてその中でも一番惹かれて、何度も何度も繰り返し読んだのが、『麦の海に沈む果実』だった(次点は『ライオンハート』)。

少なく見積もっても50回は読んだと思う。多分人生で最も繰り返して読んだ本だ。

『麦の海に沈む果実』の舞台は、芸能人の隠し子や世界を股にかけるマフィアの子どもなど、後ろ暗いバックグラウンドを持つセレブの子息たちが集まる陸の孤島の全寮制の学園。学生を受け入れるのは三月のみ、というこの学園は、「三月の王国」とも呼ばれている。しかし、転入生の水野理瀬は、二月に転入することで、転校早々「異端」として扱われる。

そして、学園について何も知らない理瀬を待ち受ける異様な事件と、物語を追うごとに明かされる理瀬自身の秘密……という感じで齢11の少女が憧れるのは必至な作品なのだ。

その翌年には続編となる『黄昏の百合の骨』も刊行され、わたしはもう迷わず母にねだって買ってもらい、あぁん、続きはいつかしらん??なんて待ち続けて気付けば17年が経ってしまった。

もちろんその間に理瀬シリーズの外伝ともいえる短編もいくつか出ていたのだが、思春期の少女の欲望としては物足りない。

長編が読みたいのよ、とスマホを使いこなすようになってからは年に数回続編について『理瀬シリーズ 最新』などと検索する日々。2011年にはメフィストで続編となる長編が連載されているらしい、どの情報を得たが、単行本化の話はとんと聞かなかった。

それが今年5月、例年のように何気なく検索するとついに理瀬シリーズの最新長編『 薔薇のなかの蛇』の刊行情報が舞い込んできたからたまらない。知ったその日に予約してKindleに配信されたのが昨日のこと。速攻読みました。

この年になると世界を股にかける、美しくて賢くて特別な女の子、である理瀬というキャラクターにどこかこそばゆさを感じるものの、変わらぬ恩田陸節にどこか安堵した。

ふと、もし今はじめて『麦の海に沈む果実』を読んだらあの時のようにハマれるのかな、なんて考えてみる。

小説にはなんとなく、読むべきとき、旬、のようなものがあるのではないかと思うのだ。

けれど、あの「小説に入れ込む」経験がなければわたしはここまで物語を読み続けていないな、と思いなおす。

旬を過ぎれば情熱は薄れて、微かな懐かしさだけをよすがに距離のある物語にすがるしかないのだけど、たまには懐古もいいでしょう。

永遠の少女である理瀬に、すっかりすり減った11歳の少女だった自分をあてがう気恥ずかしさを背負って、わたしはまた理瀬シリーズの新刊を待つ。

薔薇のなかの蛇

薔薇のなかの蛇