北朝鮮から脱北する人々に密着したドキュメンタリー映画『ビヨンド・ユートピア 脱北』を見た。
今作で密着されるのは二つの家族。脱北して10年弱、韓国に住む女性で、17歳の息子の脱北を待ち望んでいる。もう一組は80代のおばあちゃんと夫婦と幼い娘2人の5人家族。こちらも親族が脱北済みで、韓国から今回の脱北をサポートしている。
親族が脱北した人々は「裏切りのものの家族」として冷遇され、収容所に収監されたり、最悪、死刑になることも多いという。
こうした脱北者を支えるのが韓国の牧師のキムさんで、キムさんは奥さんが脱北者。北朝鮮の男性はみんなガリガリのため、金正日のように丸々とした体型のキム牧師に一目惚れしたそう。キム牧師はこれまで1000人以上の脱北を支援してきたが、その支援活動の中で自分の息子を亡くしている。自身も生死を彷徨うような怪我も経験し、中国当局から要注意人物としてマークされ、共産圏への渡航は常に危険が伴うにもかかわらず、息子を失った代わりに多くの人を救いたいと活動を続けている。
今回脱北する2組の家族のうち、5人家族は、正直かなり脱北のハードルが高い、と言われていたが、老女と幼女を含む家族、ということが同情を誘ったのか、さまざまなサポートを経て脱北の道を突き進む。しかし、その道もハードで、中国、ベトナム、ラオスと共産圏の国々で警察の目をかいくぐり突き進む必要がある。その過程で、10時間に渡りジャングルを歩き、山3つを超えたり、メコン川をすぐ転覆するようなめちゃくちゃ細いボートで渡ったりする必要があり、想像を絶するハードな旅だ。一家の未就学児くらいのむすめさんが、メコン川を渡る船で声を押し殺して泣いていたのが目に焼きついている。
一方で17歳の息子を待つ女性には、ブローカーがことを急いだこともあり、中国に渡った息子はすぐに捕まったという連絡がくる。状況を改善しようと、信用ならないブローカーにお金を渡すなど、万に一つをかけて、さまざまな手を尽くすが、息子は北朝鮮に送り返され、政治犯として収容所に入れられてしまう。
本当に全く違う運命を辿った2つの家族をみて、時の運というか、人の出会いとタイミングでこんなにも結末が変わるのか、と衝撃を受けた。
また今作で、さまざまなやり方で、命をかけて入手した、最近(2010年代後半?)の北朝鮮の映像が映っていた。多くの国民にとって、他の国の状況は政府が作った虚構の情報しかなく、万一情報にアクセスできても、それはフェイクだ、と洗脳され、みんな「この国は他の国と比べたらいい国だ、ユートピアだ」と思っている。
しかし、トイレは木の箱で、水は配給制で、手に入らないことも多い。火はいまだに薪で炊いていて、高層ビルにもエレベーターはない。統率を乱したり、ちょっとした政権への意見をしただけで政治犯として逮捕されたりするような、危険な視線を常に感じなくてはならない。なにより、国民の大多数は貧困に喘ぎ、痩せ細っているのに、中枢にいる人々は丸々と太って、金回りも良さそうだ。
距離としてはそんなに遠くない国で、こんな理不尽が罷り通っていて、その原因には、日本の存在ももちろんあって、と思うとずぅうん、と暗い気持ちになった。
人々は必死に農業をして、食べれるものを作っているのに一生満たされない。金一家が作り上げた仮想の世界を信じて、今日も必死に働いている。
一方で、日本を見ても農家や何かを作っている人が稼げるのか、というと違っていて、ITとか、M&Aとか、投資信託とか、そういう仮想のやり取りが1番金になる。インターネットも、法人も、株もどう頑張っても食えやしないのに、私たちはそれが1番信じられて1番欲しい、これってなんだかおかしくないか、と思いながらインターネットに時間を割く。
歴史の流れが違ったら日本がこうなっていたかもしれない。そう思うと、全然北朝鮮をありえないとは思えないし、そうなっていたとき、きっとわたしは素直に偽物のユートピアを信じていただろうな、と思ってしまった。
うーーーん、なんなんだーーー!