飛行機の窓から街が見えてくる。
家を出てからおおよそ24時間、無事にヒースロー空港に到着した。
イミグレも通過し、わたしとモチの預け入れ荷物も無事回収した。
しかし、なぜかお母さんの荷物だけが一向に見つからない。「紺色のスーツケースなんだけど」と母はいうが、そのようなスーツケースは見当たらない。徐々に母の不安と苛立ちは高まっていく。「さっき隣のインド人が持っていってたのがわたしのだったかも」など、無礼極まりない被害妄想を垂れ流しながら歩き回る。当然そんな母にわたしは怒り心頭で「それは差別だし失礼すぎるよ」と言いながら探すが、紺色のスーツケースなんてどこにもない。
職員さんが、レーンから残っている荷物を次々おろすが、そこにもない。
ついて早々ロストバジェットか……という絶望的な雰囲気がわたしと母の間を流れる。
するとモチがレーンを指差して「おばあちゃんの、あれちゃう?」という。もう完全に諦める側に意思決定を倒していたわたしと母は、まさかぁ、と思ってモチの指の先を見る。 そこには、ぽつねんとレーンを流れるバキバキ真っ黒のスーツケース。
母は慌てて近づき「これ!これ!」と叫ぶ。全然紺じゃないやんけ、と怒りが込み上げつつ、母とモチに近づく。
「モチ、なんでわかったの?」と聞くと、スーツケースの車輪が特徴的だったからすぐわかった、とのこと。ぼーっとしているようでよく見てるんだな、と感心して褒めちぎる。母はモチの後ろで申し訳なさそうに佇んでいた。
無事にスーツケースも見つかり、地下鉄に向かう。すると途中で同じ便だったであろう日本人のマダム二人組に呼び止められる。これから知り合いのところに会いにいくのに、Wi-Fiを借りたものの接続できないという。そこでスマホを拝借してWi-Fiの設定を見る。繋がっていなかったので設定をしたら、無事繋がった模様。マダムたちからお礼に入浴剤をもらって別れる。
無事に地下鉄に乗りこむ。このとき、土曜の朝6時過ぎ。電車にはほぼ人が乗っていない。
しばらくすると電車が外に出た。完全なるロンドンの街並みに感動する。
ホテルの最寄り駅で降りる。改札を出ると目の前にクリスピークリームドーナツがあって、モチが食べたいというので一つ買う。するとレジの人が、あなたのベイビーかわいいわね、おまけよ、と何とプレーンドーナツを2個プレゼントしてくれた。わたしも母もモチも嬉しくて、道すがらのベンチでみんなでドーナツを食べた。
ホテルに着く。朝早い時間帯で、チェックインまではまだまだあるので手荷物だけ預ける。今回、飛行機とホテルをまとめた取ってくれるツアーに申し込んだのだが、事前の案内にホテルによっては手荷物を預けるのにお金がかかるかもと記載されていたので、Chat GPTと会話シミュレーションをする。しかし、いざレセプションに行き、受付の人に話しかけると、「すいません、今日泊まらんすけど、スーツケースあずけ…」くらいで「オーケー!カモン!」と案内され、あっさり預けることに成功した。
荷物も預け、身軽になったわたしたちは、バスに乗って大英博物館に向かうことに。
憧れのロンドンバス。乗り込んだら迷わず二階に向かった。空は晴れ渡っていて、街並みがよく見える。モチとワーキャー言ってたらあっという間に大英博物館。
事前に公式サイトで予約していたので電子チケットを見せて手荷物検査をして入場。
中に入るとモチはいそいそと鉛筆とスケッチブックを取り出す。
モチはかねてから博物館や美術館でのスケッチに憧れており、ついに実現の時が来た!ということで、ちょろちょろと歩いてモチーフを探す。
古代エジプトゾーンはかなりお気に入りで、なかなか動かない。そんなモチの様子を最初は微笑ましく眺めていたが、時間を追うごとに(大英博物館にいるのにずっとここにいるのもったいなくね…)という気持ちが頭をもたげ、モチに向かってもういいんじゃない?を三十回くらい投げかける。しかしモチは全く屈せず書き続ける。
エジプトの壁画の前を動かないモチを不思議に思ったのか、知らないマダムたちが次々やってきては手元をのぞいて、絵を褒めたり、モチの頬を撫でたりして去っていった。この距離感は日本にはあまりないので新鮮である。
結局牛歩の歩みで、エジプトのコーナーと中南米のコーナーを見たところで、飛行機の疲れもあり、3人とも力尽きてしまった。
せっかくなのでロンドンぽいものを!ということで近くのパブでフィッシュアンドチップスを食べることに。
あまりにも大きすぎて笑ってしまったが、結局ひとり一皿(モチはハンバーガー)ペロリと食べた。
食事後は、時差からの眠気と飛行機から疲れもあり、ホテルに戻ることに。
チェックインして、ホテルで順番にシャワーを浴びたら16時過ぎ。外は真昼の明るさだったが、みんなでベッドに倒れ込み眠った。
起きたら22時過ぎで絶望がやばかったが、開き直って二度寝した。